スポーツとしての剣道国際試合とは?
第19回剣道世界選手権大会(WKC)が、2024年7月4日から7日にかけてイタリアのミラノで開催されました。日本の武道が国際化の例としては、五輪競技として長年親しまれている柔道、そして東京五輪に採用された空手がありますが、剣道も国際的な広がりを見せており、過去50年以上にわたって世界選手権が各国持ち回りで行われています。
静岡県では現在、こうした海外における日本の武道愛好家に対し、県内での武道家との交流や合宿の実施を促す誘致活動を行っています。そこで、今回の剣道世界選手権がイタリアで実施されたのを機に、海外の人々がどのように武道に親しんでいるのかを実見するため、県スポーツ交流海外連絡員(ロンドン在住)の酒井元実氏が競技の場を訪れ、レポートをまとめました。
<以下酒井氏のレポート>
今回の剣道世界選手権には、61の国々から剣士たちが集まりました。4日間にわたる大会では、男子と女子の個人および団体戦が行われました。
なお、選手権は3年ごとに開催されることになっていますが、3年前にフランスで開催が決まっていた第18回大会はコロナ禍の影響で中止されたため、今回は2018年に韓国仁川で開かれた第17回から6年ぶりの開催でした。
ミラノでは、大会の実施にあたって市内のあちこちにある広告用サイネージを使い、動画を使ってPRが行われていたのが印象的でした。有名な観光地でもあるドゥオーモの近くにも剣道大会のPR看板があり、日本人として誇らしく思いました。イタリアでの開催は2012年の第15回以来、その時の参加国数は48だったそうです。
現地メディアでは、大会の実施について積極的に報道し、ミラノ市議会や各スポンサーからの支援について取り上げられていました。
【剣道を学ぶことは、日本への深い興味から】
大会はミラノ南西郊外にあるUnipolフォーラムを使って実施されました。15,800人を収容、多目的屋内施設ではイタリア最大級の一つです。バスケットボールチーム「オリンピア・ミラノ」の本拠地で、マドンナのコンサートも開かれたとか。日本武道館の客席数が15,000弱なので同じような規模です。
各国選手の顔ぶれを見ると、日本人もしくは両親のどちらかが日本人という選手がかなりの幅を効かせています。ユニークだなと思ったのは、カナダとオーストラリアで、選手団が中国、韓国系で占められていました。アジア系の親たちが「子どもたちの精神鍛錬のために日本の剣道に通わせよう」と考えていることが窺えます。
一方、全くの“外国人”が剣道を嗜む、しかも国代表選手に選ばれるという人たちはどんな考えを持っているのか気になります。剣道を学ぶことは、「日本文化への深い興味や敬意の表れ」で、誰しもが「一度は日本に行って、竹刀を振ってみたい」と異口同音に言います。剣道を通じて、「歴史的な背景や武士道の精神を体感したい」というような硬派な男性剣士もいますが、「剣道を知るきっかけはアニメだった」という選手は欧州を中心に結構大勢いるようです。
【スポーツの要素高い海外での剣道】
大会を見ていて「外国人が剣道をどう捉えているか」についても知っておく必要がありそうだ、と強く感じました。
団体戦の際、日本選手が正座をして戦況を見守る姿は、まさに剣道の「心・技・体」の調和を具現する、というものです。一方、筆者が住む英国代表チームは、対戦を終えた剣士を、控える選手全員がサッカーのPK合戦と同じようにグータッチをして活躍を讃えるという仕草をしたのが印象的でした。これは、剣道の精神から見ると「良い、悪い」で判断しがちな例かな、と思います。しかしこれは、剣道の国際化につれて起こる「武道としての伝統」と「競技スポーツとしてのエキサイティングさ」とのせめぎ合いなのかなと理解したい点ではないでしょうか。海外で剣道は「技術を高めて戦うスポーツの一つ」と捉えられていることもよく理解できました。
難点を上げると、試合会場でのアナウンスがほぼなく、ディスプレイも曖昧で誰がどう戦っているのかよくわからないのが気になりました。しかも静粛な場で戦うのが是とされているため、音楽やDJが盛り立てるということもなく、エンターテイメント性にも欠けることから、関係者以外の観戦者を取り込むという点においては課題が残ると感じました。
調べたところによると、日本代表は一人として外国人選手に負けた選手はいなかったそうです。圧倒的な勝利という強さは剣道発祥国として誇るべきことでしょうが、柔道や空手のように、他国から金メダリストが生まれる時代が来ることも併せて期待したいものです。